臨床的に小字症を呈する6例に対して同一の検査課題を行い,比較検討し特徴を分析するとともに,訓練の手がかりとなる外的刺激 (cue) の有効性について調べた。結果,外的刺激はとくに視覚的 cue が有効であったが,外的刺激への反応や汎化に関しては一様ではなく,その違いは小字症の質的差異を反映していると思われた。 6例の中で,小字症の発現機序を考えていくうえで,特徴のあった3症例,1) 右半球病巣で右手に小字症を呈した1例,2) 両手に小字症を呈した1例,3) 文字と連続図形に顕著な差があり,小字症状が文字に選択的に出現した1例,について取り上げて記述した。これらの症例から,書字の調整機構が右半球に存在し,右手に機能する例のあることや,書字動作のパターンが両手ともに形成されうる可能性と,図形や他の運動制御とは別の書字運動に関与する調整機構の独立性が考えられた。