健常高齢者20名を対照群とし,アルツハイマー型痴呆 (DAT) 群20名の意味記憶崩壊初期の障害構造を検討した結果,DATには意味記憶そのもの (言語性表象としての「語」や視覚性表象としての「線画」により “意味されるもの”) の障害が存在すること,意味システムの様式構造は単一であることが示唆された。さらに,左側頭葉に著明な損傷をもつヘルペス脳炎後遺症による選択的意味記憶障害 (症例1) と両側側頭葉萎縮の意味痴呆 (症例2) を検討した結果,症例1と DAT群の障害構造は類似し,症例1にも意味記憶そのものの障害が存在することが示唆された。一方,症例2の障害構造からは,言語性あるいは視覚性の表象と意味記憶そのものとの間に強いアクセスの障害が存在することが示唆された。意味記憶そのものの障害には,左側頭葉の局在的損傷が関与し,このような強いアクセスの障害には,両側側頭葉を含む変性病変が関与する可能性が考えられた。