液体の機械的物性は, おもに粘度または流動挙動で論議されているが, 非ニュートン流動性を示す液状食品の多くは, 粘弾性体としても挙動する.定形性をもたない液状材料の粘弾性は, これまでは動的測定法で得られる複素弾性率や損失正切 (tanδ) などの動的粘弾性パラメータで論議されてきたが, 動的粘弾性は周波数などの測定条件によって大きく影響を受けるため, 得られる動的粘弾性パラメータの物理的意味が複雑または曖昧となる問題がある.そのため, 一般的には限定された線形領域の測定値で粘弾性を評価しているが, 液状食品の製造工程管理や品質設計を行うために必要な評価条件にそぐわないことも多い. 一方, 最近著者らが開発した非回転二重円筒型レオメータでは, 液状材料の粘度およびずり弾性率 (静的粘弾性) を任意のずり速度で同時に直接測定することが可能である.この方法では, カップ (外筒) が定速で軸方向に微小距離 (0.1~0.2mm) 移動する問に試料がプランジャ (内筒) に作用する総合力Fの時間変化曲線から静的粘弾性を測定するが, 測定開始直後のFの時間変化曲線が2種類に大別されることを見い出した.1つは, Fの瞬間的増加に続いて上に凸の曲線となってFが増加するもの (曲線1) であり, 他の1つは, 作用力の瞬間的増加後は, 時間に対して直線的にFが増加するもの (曲線II) である. そこで本研究では, 非回転二重円筒法で測定されるFの変化曲線の形の違いは, 液状材料の粘弾性の発現機構の違いに起因するものと推定して, 2つの2要素粘弾性モデル, すなわち, 粘性要素と弾性要素の直列モデル (Maxwellモデル) および同要素の並列モデル (Voigtモデル) を用いて液状食品の粘弾性挙動の解析を試みた.2要素モデルは, 動的粘弾性の挙動を説明する際によく用いられるものであり, 非回転二重円筒法で測定される静的粘弾性と動的粘弾性の対応関係を検討する場合にも都合が良い.ここでは, 2種類のFの変化曲線と2要素モデルとの対応性および液状食品の性状と2要素モデル適合性を検討した. 試料には, 製造者が異なる2種類のケチャップ (KA, KB) とマヨネーズ (MC, MD) を用いた.マヨネーズの分散相体積分率φは0.75以上である.各試料の初期水分は, KA=72.6wt%, KB=73.8wt%, MC=17.5wt%およびMD=20.0wt%であり, これらの試料に加水して, 水分を20~32%の範囲で7段階に調整したマヨネーズ試料と74%, 76%, 78%に調製したケチャップも用いた.測定には, (株) サン科学製のレオメータ (CR-200) を用い, カップ直径は29.2mmとし, マヨネーズ試料の測定には直径25.1mmのプランジャ, ケチャップ試料には直径27.1mmのプランジャを用いた.プランジャの初期液深は60mm, カップの移動速度0.333mm/sとした.すべての測定は25℃で行い, 粘度と弾性率の値は, 1条件で4~6回の測定での平均値とした. ずり速度一定条件での2要素モデルの解析結果は, 曲線Iと曲線IIは, それぞれ直列モデル (Maxwellモデル) と並列モデル (Voigtモデル) に対応することを示した.実験結果は, 粘度とずり弾性率はマヨネーズ試料とケチャップ試料のどちらも水分の減少とともに減少することを示した.しかし, マヨネーズ試料は, 水分が約25%付近で水分に対する減少傾向が変化した.また, 水分が25%以上のマヨネーズ試料とケチャップ試料 (水分は, 約73%以上) は, プランジャへの作用力Fの瞬間的な増加に続いて上に凸の増加曲線となる曲線Iを示したが, 25%以下のマヨネーズ試料は, 曲線IIとなった.25%以下のマヨネーズ試料の分散相体積分率φは, 球状粒子集合体の細密充填濃度 (φ=0.7405) 以上となっているものと推定される.したがって, 分散相または分散固形物の体積分率が細密充填濃度を超える場合 (φ>0.75) には, 分散相と連続相の変形または移動が相互に干渉しあう挙動, すなわち, 粘性要素と弾性要素の並列モデル (Voigtモデル) 的な挙動を示すものと考えられる.これに対して, φ<0.75の液状食品では, 分散相の変形または移動に対する連続相の制限が少なくなるか相互が自由に変形できるため, 直列モデル (Maxwellモデル) 的な挙動となるものと考えられる.まとめとして, 液状食品の粘弾性挙動は, 2つの2要素モデルのどちらかで近似でき, 分散相の体積分率が0.75より高い液状食品は並列モデル的な粘弾性挙動, 0.75より低くなると直列モデル的な粘弾性挙動を示すものと推察した.