2種の加リン酸分解を用いて,デンプンを原料としたセロビオースの合成を行った.第1ステップとして,1 M 無機リン酸の存在下,デンプンにα-グルカンホスホリラーゼ[EC 2.4.1.1]を作用させてデンプン分子内グルコース残基の39.6%をグルコース1-リン酸へ変換した.第2ステップとして,排除分子量100のイオン交換膜を装着した電気透析により無機リン酸を選択的に除去し,82.1%の回収率でグルコース1-リン酸を回収した.第3ステップとして,塩基性環境下(pH 8.0)における酢酸マグネシウムの存在下,得られたグルコース1-リン酸およびこれとほぼ等モルのグルコースにセロビオースホスホリラーゼ[EC 2.4.1.20]を作用させ,グルコース1-リン酸の89.2%をセロビオースへ変換した.こうして2種の加リン酸分解酵素と電気透析を組み合わせた3ステップ反応により29.0%の変換率で原料デンプンをセロビオースへ変換することができた.セロビオースにスポンジニッケル触媒(ラネーニッケル)を作用させて回収率86.7%でセロビトール結晶を得ることができ,その化学構造が4- O -β-glucosyl- D -glucitolであることを1H-および13C-NMR分析により確認した.また,X線結晶構造解析の結果,セロビトールの結晶構造は斜方晶系に属し,各格子定数は, a = 1.0007, b = 0.8683, c = 2.3137 nmおよびβ = 127.27°であった.さらに,TG-DSC分析の結果,セロビトール結晶は一水和物であり,その融点は103.6°Cであることが判明した.パネラーによる官能検査の結果,セロビトールの甘味度は約20と評価され,ソルビトールやマルチトールなどの糖アルコールより甘味が低いことがわかった.また,吸・放湿試験の結果,セロビトールは,ソルビトールやマルチトールに比し,低い吸湿性を有していることが判明した.また,ラットを用いた単回投与毒性試験の結果,セロビトールの経口投与によるLD50値は5000 mg/kg以上と推察された.以上の諸性質は,セロビトールが食品素材として有用であることを示すものである.