エンド-β- N -アセチルグルコサミニダーゼは,アスパラギン結合型糖鎖のキトビオース間を適当な水酸基結合分子によって分解し,糖鎖をこの分子に転移する.われわれが発見した酵素 (エンドHS) は,糖タンパク質から,2,3,4本鎖コンプレックス型糖鎖を容易に遊離させる唯一の酵素で,われわれはエンドHSの糖鎖転移特性を検討してきた.エンドHSはヒトトランスフェリンから2本鎖コンプレックス型糖鎖を転移し,生成物は受容体濃度依存的に増加した.このとき,PNP-α/β- D -Glc,PNP-α/β- D -Gal,PNP-β- D -Man,PNP-β- D -Xyl,PNP-β- D -GlcNAcへ糖鎖を転移し,α/β-アノマーを区別しなかった.他の酵素は,糖の4位の水酸基がエカトリアルであることを要求するためGalには転移しない.したがって,エンドHSは,受容体分子の水酸基の立体配置認識が他の酵素とは異なっていた.生成した転移生成物は反応液中でほとんど減少せず,転移した糖鎖は,GlcNAcβ1-4以外の様式でGlcと結合しているか,エンドHSは糖鎖構造中のGlcNAc-GlcNAc間は加水分解するが転移生成物中のGlcNAc-Glc間は加水分解しにくいものと考えられた.また,エンドHSはPNP-グリセロールへも糖鎖を転移し,糖鎖供与体に対する K m値は,受容体がPNP-β- D -Glcの場合と大差はなく,エンドHSの糖鎖供与体に対する親和性は,受容体分子の構造の違いによる影響を受けにくいものと考えられた.さらに,本酵素は糖タンパク質から3および4本鎖コンプレックス型糖鎖を転移した.また,糖ペプチドからも糖鎖を転移した.一方,糖アスパラギンからも2および3本鎖コンプレックス型糖鎖を各種単糖,オリゴ糖,糖アルコールおよび配糖体に転移した.また,極性有機溶媒が転移効率に有効であった.エンドHSによって,糖タンパク質由来のさまざまなコンプレックス型糖鎖をさまざまな受容体分子に直接導入し,糖鎖と受容体分子双方の機能を持つ機能性糖鎖ハイブリッド創成の実現の道が開いた.