古糊は10年の成熟期間を要するといわれている. そのため, 科学的方法によって短期間での古糊の製造の開発が要求される. そこで我々は, (日本の伝統芸術の装飾に使われる) 古糊の構造を解明するため, 小麦澱粉糊を冷凍 (-30℃) と低温 (4℃) で数回処理 (24時間を1サイクルとして10, 20, 30回) した場合の影響を検討した. 前報で古糊の分子構造について報告し, 古糊の構造は成熟中に季節による温度変化による物理的要因によるのではないかと推測した. この温度変化による物理的要因の影響を解明するため, モデル系として上記の処理をした小麦澱粉糊を調製した. その結果は以下の通りであった. 1) 4℃処理でのSEM画像は小石のような塊を呈しており, 古糊にやや似ていたが, -30℃処理では平らな板状構造を呈していた. 4℃処理と-30℃処理の大きさは回数を重ねると小さくなる傾向を示した. 2) -30℃処理のX線回折図型は4℃処理や古糊の図型よりもピークが高かった. 3) BAP法による4℃処理の糊化度は-30℃処理よりはるかに大きかったが, グルコアミラーゼ法では4℃処理の方が大きかった. 4) Toyopearl HW-75Fによる-30℃処理と4℃処理のGPCパターンは, 古糊のパターンに対してアミロペクチンのピークがかなり残っていた. 5) DSCの結果は, -30℃処理に吸熱ピークがみられ, 処理回数に伴い大きくなった. これに対して4℃処理では, ピークは殆どみられなかった. 結論として, -30℃処理は4℃処理よりも老化が進み, そのメカニズムは特異的なものと思われた. また, 古糊の成熟機構は, 4℃処理に似ていると考えられるが, GPCパターンでの不一致は, 説明できなかった. おそらく, 古糊の特別な糊化過程 (24時間の加熱攪拌処理) がGPCパターンの不一致をもたらしたと考えた.